「シロアリ」という言葉を知らない人はあまりいないでしょう。 ただ、実際にシロアリを見たことのある人は、少ないのではないでしょうか。 シロアリは木を主食とする昆虫ですが、木の表面には出てこないため普段目にすることはありません。 しかし、実は地球上で最も数の多い昆虫と言われ、自然界ではシロアリがいなければ生態系が成り立たないほど重要な役目を担っています。
シロアリは木の幹に豊富に含まれる「セルロース」を栄養とする数少ない生物で、倒木などを土に還すため”森の分解者”と呼ばれています。 また、木を食べるシロアリがアリ(以下、黒アリ)などに食べられることから、植物性たんぱく質を動物性たんぱく質に変えることになり、自然界の食物連鎖においても重要な昆虫とされています。そんな、自然界では必要とされるシロアリが、人間の住む木造住宅にとっては恐ろしい天敵となってしまうのです。
シロアリは黒アリと姿が似ていて、黒アリ同様に集団で生活することから、 「白アリ(白いアリ)」と名づけられたと考えられています。ともに集団の中に「働きアリ」「兵隊アリ」などの階層がある「社会性昆虫」ですが、 実はシロアリはゴキブリの仲間(ゴキブリ目)、黒アリはハチの仲間(ハチ目)に分類されます。 さらに、シロアリにとって黒アリは、シロアリを捕食する”天敵”なのです。
地球上には約2,500種のシロアリの生息が確認されており、わが国には22種前後が生息しています。そのうち、家屋に被害をもたらすシロアリは主に次の4種です。
土壌性シロアリにとって水分は非常に重要で、土中から蟻道(ぎどう・シロアリの通るトンネル)を伸ばして水を運び、木材を加害します。
一方、乾材シロアリは乾燥した木材に含まれるわずかな水分で生きられるので、 輸入家具からや、羽アリが飛来して小屋裏に上がります。土壌性シロアリとは侵入経路が異なるので、同じ措置では防ぐことができません。
乾材シロアリの中でも、特にいまアメリカカンザイシロアリが問題となっています。
アメリカカンザイシロアリは乾燥した木材を好み、小屋裏の木材や家具などを食害します。職蟻は体長6.0mm前後、兵蟻は体長8.0〜11.0mm。蟻道を作らないため発見が非常に難しく、気づいたときには大きな被害になっている可能性があります。被害箇所には糞粒が落ちていることがあり、これを発見することで被害に気付くということが多いようです。ダイコクシロアリもアメリカカンザイシロアリと同じ性質を持っています。
ヤマトシロアリは寒さに強く、北海道北部を除く全国に分布しています。 職蟻は体長3.5~5.0mm、兵蟻は体長3.5~6.0mm。濡れた材を好み、被害件数はイエシロアリを圧倒しています。 加害部に数千~数万頭の巣を作ります。
イエシロアリは世界で最も加害力が強い種です。 寒さに弱く、関東以西以南に生息しますが、温暖化や住宅の高断熱化で”前線”が北上しています。 乾いた材でも濡らしながら食害していきます。職蟻は体長3.3~5.2mm、兵蟻は体長3.8~6.5mm。 加工した塊状の巣を形成し、そこから広範囲に渡って活発に餌を求めます。 活性の高いイエシロアリの巣では個体数が数百万頭にも達すると言われています。
ヤマトシロアリとイエシロアリは兵蟻(へいぎ・兵隊アリ)で容易に見わけられます。 ヤマトシロアリは頭が長細い2頭身(全長の半分が頭)で、指を出すと逃げてしまいます。 イエシロアリは頭が卵型の3頭身で、指を出すと噛み付き乳液状の分泌物を出します。
羽アリは文字通り「羽のあるシロアリ」で、職蟻・兵蟻と異なり生殖能力を持った階級です。つまり、新しい巣を作るための女王蟻・王蟻予備軍といえます。
ヤマトシロアリは4~5月の午前中や雨上がりに、イエシロアリは6~7月の夕方に一斉に巣を飛び立ちます。 この飛行は群飛(ぐんぴ)と呼ばれ、数百~数千頭が飛び立つことから巣が空になったと思われがちですが 実は飛び立ったのはほんの数パーセントに過ぎません。その巣に個体数が多くなった時の分家に相当し、つまり羽アリが飛び立つということは、そこには成熟した巣があり、 木造住宅の場合、往々にして手遅れの状態を意味します。
群飛後、羽を落とした雌雄はペアになり、住みやすいところに潜んで女王と王になります。 女王の腹部は肥大し、多いもので一日に数百個の卵を産み続けます。卵から孵化し、脱皮を繰り返して立派(?)に育った職蟻は、女王などの世話や巣の構築のため、また自分の食事のために木材をかじります。そして、食事を探すために土中を移動します。切り株の根に当たれば食害し、排水管があればパイプに沿って上り、基礎の内側に蟻道を伸ばして土台などを食害します。
ヤマトシロアリは数千~数万頭の比較的小規模の巣(コロニー)を形成します。加害部分がコロニーとなっていることが多く、駆除は比較的容易です。
一方、イエシロアリは数百万頭規模のコロニーを形成します。土中に塊状の巣(本巣)を造り、そこから蟻道を伸ばして途中に分巣を造り、その範囲は最大半径100mにもなります。本巣の生殖虫を駆除しなければ意味がなく、駆除は容易ではありません。
1.まずは迷信を信じないこと
ヒノキにはほとんど防蟻効果はありません。壁体内通気も同様です。基礎パッキンも万全ではありません。 中には「マイナスイオンで寄せ付けない」というような話までありますが、科学的根拠はありません。
2.点検をすること
シロアリは住宅の癌といえます。早期発見できれば直る可能性が高くなります。
3.床下を暖めないこと。
シロアリは寒いと活性が下がり、冬場の土中では暖かいところを求めます。 暖かい床下にシロアリが入り込むと、季節に関係なく一年中活発に活動し続けることになります。 基礎を暖める工法はそもそも北海道などのシロアリが少なく活性も低い地域で行われていたものです。
4.床下や庭に木材などを置かないこと
床下や庭に木材を置くとシロアリを呼びます。 特に紙は、木材からシロアリの栄養分であるセルロースを抽出して作られているので大好物。 段ボールも注意しましょう。