家を建てるとき、「シロアリ被害」が気になるという方は多くいるでしょう。シロアリ被害とは、シロアリが住宅の主な建材となる木材を食べることで、家の強度や耐久性が低下してしまう被害です。木造住宅に限らず、鉄骨造の住宅でも被害を受けるリスクがあります。
日本に生息するシロアリにはいくつかの種類がありますが、その中でも特に被害が多いのが「ヤマトシロアリ」と「イエシロアリ」です。中でもイエシロアリは、被害が広範囲に及びやすいという特徴があります。大切な住まいを守るためには、シロアリの種類や特徴を正しく知っておくことが重要です。
そこで今回は、イエシロアリの生息地域や特徴、そしてヤマトシロアリとの違いについて詳しく解説します。被害を未然に防ぐための知識として、ぜひ参考にしてください。
日本の住宅に被害をもたらすシロアリにはいくつかの種類がありますが、中でも代表的な種類が「ヤマトシロアリ」と「イエシロアリ」です。いずれのシロアリも建築物に深刻なダメージを与えますが、特にイエシロアリは極めて厄介な存在として知られています。
イエシロアリは乾燥した木材にも自ら水や湿った土を運び込んで湿らせて食害する習性があり、壁内部や天井裏などの広い範囲にまで食害を広げることもあります。
また、巣(コロニー)や蟻道(ぎどう)を作る能力にも優れており、建物の壁の内部や樹木、杭の中などに塊状の大きな巣をつくります。建物の木材にとどまらず、コンクリートやプラスチック、金属にまで被害を及ぼすこともあるため、木造住宅以外の住宅でも注意が必要です。
建物に一度侵入すると被害が広範囲に及びやすく、発見が遅れるほど修繕の規模や費用も大きくなります。そのため、専門業者に定期的な点検を依頼するなど日頃から警戒しておくことが大切です。
イエシロアリは、千葉県以西・以南の海岸沿いを中心とした温暖な地域に多く生息しています。特に九州や西日本の太平洋側に分布が広がっており、伊豆諸島や小笠原諸島、南西諸島などではほぼ全域で生息が確認されているのが特徴です。
近年では温暖化の影響や、高断熱・高気密住宅の普及により、従来よりも北の地域への生息域の拡大が懸念されています。これにより、これまで被害の少なかった地域でも注意が必要になってきています。
イエシロアリは、ほかのシロアリの種類には見られないさまざまな特徴をもっています。イエシロアリの特徴を把握しておくことで、住宅のシロアリ被害を早期に察知したり、未然に防いだりすることにつながるでしょう。
ここからは、イエシロアリの代表的な特徴を4つ紹介します。
イエシロアリは固体ごとに異なる階級・役割を担う「社会性昆虫」であり、階級によって姿や役割が大きく異なることが特徴です。
イエシロアリの階級には主に「女王アリ・王アリ」「羽アリ」「兵アリ(兵隊アリ)」「職アリ」の4種類があります。それぞれの役割と見た目の特徴は、下記の通りです。
階級 | 役割 | 見た目の特徴 |
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女王アリ・王アリ | 生殖活動 |
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羽アリ | 繁殖・新たな巣の形成 |
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兵アリ | 外敵からの防衛 |
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職アリ | エサの確保・巣の形成と維持・幼虫の世話 |
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巣の構成員の90%以上を占めるのが職アリです。職アリはいわゆる「働きアリ」で、さまざまな役割を担います。住宅に被害をもたらすのも、基本的にこの職アリです。
繁殖を担う羽アリは全体の約5%を占めていて、イエシロアリの中でも特に重要な存在であり、毎年6月~7月の夕方から夜にかけて「群飛(ぐんぴ)」と呼ばれる一斉飛行を行います。この群飛は、新たな巣を作るための繁殖行動であり、つがいとなった羽アリのペアは地中などの環境に適した場所に定着し、新たな女王アリ・王アリとしてコロニーを形成します。
群飛する羽アリは遠くまで飛ばないことも多く、元の建物周辺や、場合によっては同じ建物内に再び定着してしまうおそれがあります。しかし本当に注意すべきなのは、「羽アリを飛ばすほど成熟した大規模な巣がすでに近くに存在している」という事実です。羽アリの飛散は巣の拡大を示すサインであり、羽アリを見かけた時点で、すでに数十万頭規模のシロアリが活動している可能性が高いため、早急な対策が必要です。
複数の種類が存在するシロアリの中でも、イエシロアリは荒々しい性質をもつことから、危険性が高いと言われています。
特に兵アリは攻撃性が極めて高く、「大きな顎」と「額の先端から分泌する粘り気のある液体」を武器に、外敵に対して積極的に攻撃を仕掛けます。
また、イエシロアリの巣は非常に大規模になることがあり、直径1mを超えることも珍しくありません。巣に生息する個体数が100万匹に達するケースもあります。さらに、1つの巣から活動する範囲は半径100mにも及ぶことがあり、被害が広範囲にわたるのが特徴です。
こうした攻撃性の高さや被害の拡大スピードの早さから、イエシロアリは国際自然保護連合(IUCN)の「世界の侵略的外来種ワースト100」にも選ばれています。
イエシロアリは地中性であり、外敵や乾燥から身を守りながら安全に移動・活動するために、蟻道と呼ばれるトンネル状の通路を建物内や地中につくります。ヤマトシロアリが作る細く華奢な蟻道とは違って、大人の指が数本入るほど幅の太い、特徴的な蟻道を作ることがあります。
また、水を運ぶ能力に優れているシロアリは、蟻道の中に水を運ぶための「水取り蟻道」と呼ばれる通路を作ることも特徴で、2本の通路が並行して伸びたような特殊な構造になることもあります。
シロアリの巣は大きく分けて「食害痕跡をそのまま利用するタイプ」「蟻塚を形成するタイプ」、そして「地中に固定の巣を作るタイプ」の3種類に分類されます。イエシロアリは地中に固定の巣を作るタイプであり、「本巣」と「分巣」の2種類を形成することが特徴です。
本巣は主に女王アリと王アリが暮らす巣で、球形をしており、王室を中心に同心円状に仕切られた個室が並ぶ構造をしています。巣の素材には土と自らの分泌物(唾液)を混ぜて粘土状にしたものを使用し、器用に積み上げながら網目状の層が幾重にも重なる巨大な構造を築いていきます。
イエシロアリは水を運ぶ能力が高いため、地中だけでなく、建物の床下や壁内部、天井裏、小屋裏など、食害を進めた先のさまざまな場所に「分巣」と呼ばれる巣も作ります。分巣は、本巣とつながる経由地・中継地のような役割をもっており、主に職アリの活動範囲となります。
分巣の発見は本巣の発見よりも容易ではあるものの、日常生活では目にしない床下や壁内部や天井裏に構築されることが多いため早期発見が難しく、建物内部で分巣が見つかった場合の被害は非常に深刻となります。
日本で代表的なシロアリにはヤマトシロアリとイエシロアリがいますが、実はこの2種は、早期発見と正確な見極めが被害の拡大を防ぐカギとなります。
ここでは、それぞれの特徴を詳しく見ていきましょう。
イエシロアリ | ヤマトシロアリ | |
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生息域 | 千葉県以西・以南の太平洋沿岸部、九州など | 北海道北部を除く日本全域 |
巣 | 地中に塊状の巨大な本巣を作る | 加害箇所と巣を兼ねることが多い |
羽アリの発生時期・時間帯 | 6月~7月の夕方から夜 | 4月~5月の午前中から日中 |
羽アリの見た目 |
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兵アリの見た目 |
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性格 | 獰猛(一度侵入した場所に執着し、長くとどまる。組織的で動きが読みやすい) | 臆病(外敵や薬剤などに敏感に反応し、拠点を変えることがある。動きが読みにくい) |
巣1つに対する個体数 | 5万~100万匹以上 | 1万~3万匹程度 |
イエシロアリは、一度木材に侵入すると大規模な被害を与えるほど、集団で継続的に加害します。一方で、ヤマトシロアリは臆病で拠点を転々とする傾向があるため、加害範囲は局所的なことが多い反面、発見が遅れるケースもあります。
また、羽アリの発生時期や活動時間帯にも差があり、イエシロアリは6月~7月の夕方から夜に、ヤマトシロアリは4月~5月の午前中から日中に群飛します。このような違いを知っておくと、シロアリの種類を現場で見分ける手がかりになります。
イエシロアリは、千葉県以西・以南の海岸沿いを中心とした温暖な地域に多く生息するシロアリです。被害の進行スピードが非常に早く、発見が遅れると広範囲に深刻な被害をもたらすため、非常に厄介な存在として知られています。
シロアリ被害から住宅を守るためには、定期的な現地調査と予防薬剤散布などの防蟻処理が重要です。さらに、対策を強化する方法としては、基礎外周の土壌処理によるシロアリの侵入予防と、木部へのエコボロン処理による劣化防止を組み合わせた「eことアル工法」の導入もおすすめです。